ヤマザキマリ 『テルマエ・ロマエ』Ⅳ [読書]
ローマの技師ルシウスが
古代ローマと現代日本をタイムスリップしながら繰り広げる
風呂をめぐる大冒険も、もう4巻目。
いつものように古代ローマに帰れなくなり、途方に暮れるルシウス。
才色兼備(?)のヒロインに心揺れるルシウス。
旅館で働き始めるルシウス。
そして、馬に恋されてしまうルシウス。
今後の展開が非常に興味深い。
佐藤賢一 『ペリー』 [読書]
志あらば助けたい、できるかぎり役に立ちたいという衝動も、ペリーとしては当然の感情だった。ああ、ジャパンの人々が一通りでない可能性を感じさせているならば、なおのことだ。そう遠くない将来において、アメリカのライバルに成長するとしても、それこそチャイナ貿易のためのアメリカの中継地であるどころか、イギリス、フランスと並びながら、チャイナ市場における競争に食いこんでくるとしても、やはり協力しないではいられない。
それがアメリカの精神だからだ。
(「第3部 ジャパン」より)
佐藤賢一さんの「ペリー」は、黒船来航、日米和親条約締結を
ペリー提督の立場から描いた小説である。
これまで私は、黒船に代表される西洋文明の工業力・軍事力を背景に
開国を迫られた日本という視点のみで、日本の開国を巡る歴史を見ていた。
学校での歴史の勉強はそれで十分だったからだ。
しかし、この小説は、なぜペリーは日本を目指したのかを描きながら、
世界の中での日本の開国の意味を再考するきっかけを与えてくれる。
その後の世界はどう動いたか、明治維新以降の日本は、
対欧米というだけでなく世界においては何をしてきたのか・・・。
そういうことを考えると、TPP(環太平洋連携協定)への参加について、
わが国が判断を迫られる中で、「ペリー」は非常に含蓄のある小説と言えよう。
馳星周 『光あれ』 [読書]
「他に仕事があらへんのや、徹。
学もない、コネもない、おまけに脚が悪い。
それでそこそこの給料をもらおう思たら、
原電で働くしかない」
馳星周さんの『光あれ』は、
敦賀を舞台にした小説である。
原発がなければもっと衰退していたであろう町。
その現実の前に、出て行くのか、目をつぶるのか、
現実を受け止めてでも踏みとどまるのか・・・。
そういった住民の葛藤は、
原発を抱える町ではどこでもあることなのだろう。
そして、福島第一原子力発電所の事故以降、
われわれはその問題を国全体のものとして、
真剣に向き合わなければならなくなっている・・・はずである。
最近、脱原発のデモやそれを巡る報道を見ていて、
だんだん単なるブームに堕しつつあるのではないかという危機感がある。
自分たちは本当に自分たちの言葉で語れているのだろうか。
真山 仁 『コラプティオ』 [読書]
「あなたは本物の希望を、日本人の心にしっかりと刻んで下さいました。
未来を信じて努力すれば、報われる社会がやってくるかも知れない
"Power tends to corrupt, and absolute power corrupts absolutely."
真山仁さんの『コラプティオ』は、東日本大震災後の日本に、
強力なカリスマ性のある総理が誕生するという設定の小説である。
震災以降、ますます政治の強いリーダーシップが期待される中で、
この設定は非常に魅力的で、心躍らせながら中盤まで一気に読み進めてしまった。
一方で、作者がタイトルで明示しているように、
このストーリーの基調には、常に権力の腐敗への懸念が流れており、
それが中盤から後半にかけて、徐々に姿をあらわしてくる。
では、腐敗が国民に不幸をもたらさないようにするために、
政治家自身は、そのスタッフ達は、マスコミは、
どのような役割を担うべきなのか、それともそんなことは求められていないのか。
何より、政治家による施政について、国民には責任はあるのか、ないのか。
読み込むことでもっと作者と語り合いたい、
そう思わせる小説である。
内田康夫 『靖国への帰還』 [読書]
「靖国で会おう」
そう誓い合って散っていった「英霊」の1人が、
もし現代によみがえったら、今の時代をどう見るか、
靖国神社をめぐる現在の議論について、
どう思うだろうか・・・。
内田康夫さんの『靖国への帰還』は、
そういう難しい話題をテーマにした、
ご本人曰く、「エンターテイメント」小説である。
靖国神社、あるいは国立の慰霊施設についての議論が、
最近、少し下火になったように思う。
政権が不安定になってそれどころではないこと、
政権交代後、公式参拝をしようという閣僚が減ったこと、
未曾有の災害に直面して
日本人に「戦後」という歴史的感覚がなくなったこと、
などが理由として挙げられるだろうか。
しかし、日本という国として、日本人として、
どちらの方向にせよ考え方を整理しないままでいいのだろうか。
この問題について私自身に特段のこだわりがあるわけではないが、
何か、中国や韓国などとの外交関係においても、
自分たちの前の世代、あるいは自分たち自身に対しても、
負い目を追ったままになるような気がしてならない。
小山薫堂 『フィルム』 [読書]
映画『おくりびと』の脚本などで知られる
小山薫堂さんの初めての小説集。
遺品のフィルムを現像したことから始まる
30年間音信不通だった父との和解を描いた表題作を含め、
10本の短編と1本の対談が収録されている。
凝った技巧を感じることがあるが、
底流に流れる人生への温かい視線が
読んでいて心地よい。
今日、堀井君の誕生日をお祝いしたら、
また一年間契約を更新しなきゃいけないような気がして。
辛いけど、今しかタイミングがないと思って、決めたの。
本当にごめんなさい。
(「セレンディップの奇跡」より)
さて、8年付き合った彼女から
誕生日にこんな台詞で別れを告げられた男が
その夜どうなるかは、読んでのお楽しみ。
こんなに笑っていいのだろうか・・・ 室積光 『史上最強の内閣』 [読書]
石原慎太郎 『新・堕落論 我欲と天罰』 [読書]
今回の災害が日本を震撼させた時、
私はその印象について問われ、
これは「天罰」ではなかろうかと発言し、
一部の人々の誤解と顰蹙を買いましたが・・・(以下略)。
確かにあの時は
「政治リーダーがこの非常時に評論家みたいなことを!」
と大いに反発した。
今になってどういうことを言うのだろうと
書店で手に取った本。
内容は、期待以上だった。
氏は、「日本人という民族の本質的な悪しき変化」として、
「アメリカという間接的な支配者の元に甘んじ培われてきた
安易な他力本願が培養した平和の毒ともいえる、
いたずらな繁栄に隠された日本民族の無気力化による衰退、
価値観の堕落」を掲げ、
この震災の惨状を国民の一人一人が
これからの自らの人生の中の事柄としてしっかり受け止め、
堕落の克服と復興をともに成し遂げるべきと主張する。
その論理の課程や帰結には個人的に首をかしげるところもなくはないが、
氏の率直な物言い、そして過酷な現実を受け止め、
自分の頭で考えよという強いメッセージに大いに自省させられた。
今日は防災の日。
成田美名子 『花よりも花の如く』(9) [読書]
能に限らず
茶道弓道とか
日本のものって
「覚える」ことが稽古じゃなく
「覚えてから」ですよね(劇中、藤井琳の台詞)
うっ、痛いところを・・・。
しかも、震災以降、先生とのお稽古も先送りしがち。
いかんいかん・・・。
「花よりも花の如く」の9巻では、
主人公の能楽師・榊原憲人と
彼に弟子入りした俳優の藤井琳との絡みで、
憲人自身の能に対する姿勢も深まっていくとともに、
狂言方の宮本芳年の妹でジャズピアニスト&女優の
宮本葉月との関係も(微妙に)進展する。
憲人が以前購っていた「若女」の面(おもて)も、
舞台で使われることで、新たな表情を見せる・・・というのも面白い。
NHKスペシャル「原爆投下 活かされなかった極秘情報」 [読書]
想定外の奇襲とされてきた
広島、長崎への原爆投下の動きを、
日本軍はつかんでいた。
にもかかわらず多くの市民の命を
守れなかったのはなぜか。
当時の資料や証言から迫る。
(番組紹介より)
番組中、資料や証言から明らかになってくる
当時の日本の首脳部の対応に愕然となった。
何のための戦争、軍、情報部だったのか。
自分たちの対面のためには、
国民の命はどうなっても良かったのか。
「このままにしておけば、
日本はまた同じことを繰り返しますよ。」
当時、軍が情報を活かしていれば、
長崎を守るために飛び立つことが出来たのではないかと
悔やみ続ける元戦闘機乗りの言葉が突き刺さる。
この夏休み、「何のために」を心に刻みながら、
色んな本を読んで勉強したいと思う。