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大崎善生 「スワンソング」 [読書]


スワンソング

スワンソング

  • 作者: 大崎 善生
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2007/09
  • メディア: 単行本


------人がこの世を去るとき、西の果ての湖で白鳥が鳴声を上げる------

昨年の夏の終わり、最初にこの本を読んだとき、
登場人物達の悲痛な心の叫びが怖くて、
しばらくこの本は手に取るのはよそうと思った。

本の帯には「大崎“恋愛”小説の最高峰」と書かれていたが、
「こんな辛い思いをして、人を傷つけて、恋愛がそんなに立派なことかよ」と思った。

たぶん、何らかの理由で、傷つくことに臆病になっていたのだろう。

そして秋が過ぎ、冬が過ぎ、ようやくこの本をまた手に取ることができた。

哀しいが、文句なしに美しい小説である。

文章にはすごく透明感があって、
その文章が集まった1つ1つのエピソードが、
ガラス細工が光の角度でその印象を変えるように、
温かくほほえましかったり、胸を締めつけるように切なかったりする。

大好きなエピソードを強いて挙げるとするなら、
今は、「おとぼけトンネル」と「三百万人の軍隊」。

少し長くなるが、「三百万人の兵隊」のエピソードの一部を引用したい。

「ねえ」と僕は言った。
「はい?」
「君のいる場所の周りを、僕の兵隊が包囲している。篠原軍だ」
「篠原軍?」
「うん。名前は弱そうだけど、数だけは凄い。どのくらいだと思う?」
 自分が何を言い出しているのかわからなかったし、この会話をどういう場所に導けばいいのかも考えていなかった。由布子の部屋に横たわる闇を感じたときに、それに対抗するために反射的に出てしまった言葉だった。
「三百万人」
「えっ?」
「凄いだろう。想像できる?」
「・・・・・・」
「三百万人の篠原軍が今、君の部屋を取り囲んでいるんだ。もうどこにも逃げられないし、身動きもできない。そして・・・・・・」
「そして?」
「もう孤独じゃない」
 感情のままに言葉がこぼれていくのを止められなかった。もうそれでいいのだと思った。自分が持っている総ての兵を今、由布子を取り囲むために使い果たすのだ。彼女とその背後に横たわる虚無との隙間を埋めるために、ありとあらゆる総ての兵を一人残らず。
 自分を守る兵など一人もいらない。
 どこからか矢が飛んできたとしても、守る術はない。
 それでいい。
 総ての兵を今、君に捧げよう。
 君を守るために派兵しよう。

・・・本当はまだまだこのあとのやりとりがいいのだけど・・・。

辛いことがあった後でも、
人を信じ、自分を信じて歩いていきたいと願う人に
おすすめの小説である。
タグ:大崎善生
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